カミングアウト

怪しいと思っていた。彼の行動、言動、予定。辻褄の合わないことが多かった。そして、ワタシの予感は的中した。
彼は、既婚者だった。
SNSのアカウントを片っ端から調べ上げた。すると、彼が奥さんと楽しそうに休日を過ごす様子が映し出されていた。ピクニックに出かけて笑いながらお弁当を食べている写真。夜景をバックに寄り添う二人。奥さんの誕生日を愛おしそうに祝っている動画。そのすべてに、偽りのない彼の愛情が注がれていた。

「ねぇ」
「どした?」
激しい行為のあとのベッド。いつもなら目を閉じたまま、二度目を欲しがる彼を黙って待つ時間。ワタシが口を開いたことに、違和感を覚えた様子の彼。
「結婚したいなぁ……って思って」
「結婚?」
「そう」
「どしたの? 急に」
片肘で頭を支えながら、ワタシの顔を覗き込む。
「急じゃないよ。女として結婚を望んでも、おかしくないでしょ?」
「まっ、まぁそうだけど……」
「結婚できない理由でもあるの?」
彼は勢いよくワタシに覆い被さってきた。仰向けのワタシ。うつ伏せの彼。彼の口がワタシの耳元で弱々しく囁く。
「ごめん……」
とうとうカミングアウトするのか。ここからは延々と男の言い訳が続く。地球に生きる男はすべて、そんな生き物だ。君のことは本当に愛している。でも、俺には他にも大切な人がいる。だからって君とは別れたくない。このまま一緒にいてほしい。いつかきっと妻とは別れる。そのときは君と──。
どうせそんなところだろう。くだらない男の身勝手な言い訳は聞き飽きた。
彼の唇がワタシの頬に触れる。荒い鼻息が耳たぶを熱くする。ワタシは彼の唇を拒むように背を向けた。
「実は──」
はじまった。卑しい男たちが奏でる安っぽいファンファーレが耳の奥で鳴る。
「──信じてもらえないかもしれないけど、俺、宇宙の第4惑星から来た地球調査隊の一員なんだ。もう、すべての任務が終了したから、宇宙に帰らなきゃいけない。だから、別れて欲しいんだ……」
「はぁ?」
体勢を戻すとそこには彼の、いたって真面目な顔。彼の目をじっと見つめる。嘘を語っていないときの目だ。ってことは、彼も?
「君と付き合っていたのは、地球の女の生態調査のため。今まで騙していて、ごめんっ!」
まさか──。
彼の肌とワタシの肌。触れ合う部分から、じっとりと汗が滲む。
「あの──」
「ほんとに、ごめんっ!」
「違うの。実は、私も第4惑星から来た地球調査隊なの」
あまりのショックに気が動転したのではと、目を見開き、心配そうにワタシを覗き込む彼。
「ありえない偶然かもしれないけど、ワタシも地球の男を調査するために派遣されてきたの。DGOプロジェクトの一員として」
その名を聞いた彼は、ワタシの言葉が真実だと瞬時に悟ったようだ。
「え? ってことは、君を調査しても意味がなかったってことか?」
「ということになっちゃうね」
彼の表情が落胆の色に変わる。任務を全うできなかったからだ。
「そっか……。ところで君、第4惑星のどこに住んでるの?」か細い声で尋ねる彼。
「アナスタン街よ」
「え? 隣町じゃん!」
「ってことは、あなた、サロモーン街から?」
「そう! じゃあ、地元がほとんど一緒だ」
ワタシと同郷だと知ると、彼は子どものようにはしゃぎはじめた。
「どこ中だった?」
「アバンダン中学よ」
「俺、モニモニ中学!」
「うそ!?」
「俺、アバンダンに友だちけっこういるぜ。ってか、俺たちもう別れる必要ないよね?」
「そうね。だって現にこうして付き合ってきたんだもん」
彼は惑星へと帰還したあと、ワタシと結婚することを提案してきた。
「ワタシもそうしたいと思ってた」
彼にそっと口づけする。
彼は手のひらをワタシの胸に這わせ、いつものように、二度目を求めてきた。

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