地球大選挙

それは圧巻過ぎる光景だったよ。
この地球を棲みかとする全ての生き物たちが、地面の中から、広大な空から、静まりかえった沼地から、あらゆる場所からゾロゾロと集まってきたんだから。
見たこともない模様の巨大な動物や、普段は他の動物に踏みつけられて命を落としているような小さな昆虫、馴染みのある犬や猫、土から根を引っこ抜いたばかりの草花、それらに大きな影を落としてしまうほどの大木。
動物や植物の図鑑が一堂に会したなんて美しい眺めじゃないぜ。生命の獰猛さで埋め尽くされた、異様な光景だったんだ。

「何を決める選挙なんですか?」
俺の隣を歩く大型犬に声をかけてみた。
「この地球の支配構造を決めようって選挙さ」
「支配構造?」
「そうさ、支配構造だよ。今の地球って、誰が支配してると思う?」
支配という言葉の響きがピンと来ず、首を傾げていると、「お前ら、人間だろうが!」と怒鳴られてしまった。
それでもまだハッキリとは理解できずにいた。支配構造だとか、人間が地球を支配しているだとか。人間も動物も植物も、ただ普通に生きているだけじゃんって。

「それでは、地球大選挙を始めます」
天から声が降り注いだかと思うと、全ての生き物たちが、遥か先に置かれた投票箱に向かって、我先にと歩を進めたんだ。
そりゃ地球上の全ての生き物が投票を行うわけだから、一日や二日で終わるわけがない。何日待ったかも分からないくらいさ。
でも、とうとうやって来たんだ。その日が。

「投票の結果により、今後の地球の支配構造が決定した」
天からの声が地響きのように地を這った。
しばらくの沈黙の後、それは告げられた。
「地球を支配しようとする人間の一切の行為を禁ずる。そして、この地球を支配するという行為は、いかなる生き物も永遠に行ってはならないと、ここに定める」
人間を除く全ての生き物たちの歓声が響き渡った。もう、耳をつんざくほどの歓声がね。
勝ち誇ったような笑い声や、何かから解放されたような安堵の溜息、いろんな感情から発せられた声が飛び交っていたよ。
選挙の結果を聞き終え、ひとしきり喜びを分かち合った後、集まっていた生き物たちは、清々しい表情を浮かべながら、もと居た棲みかに帰って行った。蜘蛛の子を散らすようにしてね。

 取り残された俺たち人間の頭上には、引き続き、厳かな天の声が浴びせかけられていた。
「ただし、お前たち人間にも、ある権利だけは残しておいてやろう」
動物や植物たちの迫力に気圧された人間たちは、すっかり怯え切っていた。
俺たち人間はどうなってしまうんだ?
自分たちの未来はどうなってしまうんだ?
判決を待つように首をすくめた人間たちは、すがるようにして、天の声に聞き入ったんだ。声が響く天を仰ぎながら。
「命をつなぐために食べる権利。そして、子孫を繁栄するために、セックスする権利。これだけは残しておく」
人間たちは、静まり返った。
「それと、お前たちのことは、人間様と呼んでやろう。今日まで我々を支配し続けてきた偉大な人間に対しての、せめてもの敬意を表してな。欲にまみれた人間の自尊心は、その程度で満足だろう。さぁ、我々の地球をエンジョイしたまえ」

「今、何をして暮らしてるのかって? お隣のガンコ熊と一緒に、川の清掃だよ」
仕事をサボッて、こうして昼間っから飲み屋に隠れて、一杯やるのが俺の楽しみ。
「いつか俺も力をつけたら、あのガンコ熊の野郎をブン殴ってやろうと思ってるよ。人のこと、散々コキ使いやがって!」
ホロ酔いの気分に任せ、饒舌になって話し込んでいると、入り口の方から激しく扉を開く音がした。
「てめぇ、またサボッて酒くらってやがるのか! 早く川へ行くぞ、バカヤロウ!」
お隣のガンコ熊だった。
「やばい……。見つかっちゃったから、行くわ。またどこかで会ったら、一杯やろうや」