未来からの営業マン

「それで、家族として唯一つながりのあった孫娘まで、老婆と暮らす家から出て行かなきゃならなくなっちゃったんだ」
「老婆は、ひとりきりになったってこと?」
「そう」
「それは悲劇だな……」
「ところが、ある日、孤独に暮らす老婆のもとへ、一体のロボットがやってきたんだ」
立ち飲み屋で偶然出会った、未来人と名乗る男。仮に名前を、安村としよう。くだらない話から意気投合し、今こうして僕は安村の話に聞き入っている。立ち飲み屋はこんな風にして、こじんまりした店内で肩を並べ、窮屈に触れ合うその肩の居心地がよければ、自然と温度とつながりが生まれ、毎夜毎夜、新しい会話が産み落とされる。
「ロボット?」
「そう。ロボット」
「なんだか、急に自称未来人らしい単語が飛び出してくるじゃない」
グラスの底に残ったビールを煽った。
「そいつは、老婆が失った家族全員の代わりを務めるようにして、老婆のそばに寄り添っていたんだ。老婆を連れ出して、観光名所を巡ることもあったし、編み物をしている老婆の横で、スヤスヤと寝息を立てて眠ることもあった。幼さの残る力で、老婆の肩を揉んでやることもあった。うっかりした性格の老婆を優しく叱ってやることだってあったんだ」
「まるで、本物の家族みたいだなぁ」
「あんなにも悲しい出来事で家族みんなを失ってしまったんだから、そりゃ、家族の仕草を感じさせるロボットには、相当の愛情と愛着を感じただろうね」
 遠い国のおとぎ話を語るような目線で、安村は僕の表情を覗き見た。
「大将!瓶ビールおかわりちょうだい」
安村の話に夢中で、ビール瓶の中が空っぽになっていることをすっかり忘れていた僕は、喉の渇きに急かされるまま、空瓶を指差し、新しいビールを頼んだ。

「それで、老婆はロボットと末永く幸せに暮らしました。おしまいって類の話かい?」
「まさか!」
安村は柔らかく笑った。
「そんな幸せな日々なんて、長くは続かないさ。悲しい出来事なんて、音も立てずに近づいてきて、ある日突然、降りかかってくる」
「どうなったの?」
「老婆が病に侵されたんだ。医師からは、いつ死んでもおかしくないと告げられた……」
「病気か……」
「そこでだ。自分の死期が迫っていることを知った老婆は、何をしたと思う?」
「さぁ? やり残したことに順番に着手していったとか?」
「そんなありふれた話じゃないさ!」
「さっぱりわからないよ」
お手上げという意思表示に、眉間に皺を寄せてみた。
「あまりにもロボットに愛情を注いでいた老婆は、そのロボットのパーツを一つひとつ丁寧に分解していったんだ」
「分解? どうして?」
「自分の身体に移植していくためさ」
 あまりに急な展開に、指に挟んだタバコを落としそうになった。
「なんのために移植なんか……」
「ロボットとひとつになりたかったんだと思うよ。自分ひとりがこの世から去ってしまう寂しさもあっただろうし、ロボットだけを残していくことへの寂しさもあったんだろう」
「だからって、移植なんて発想になる?」
「老婆は無事、ロボットの全てのパーツの完全移植に成功したんだ。老婆の家にはロボットが一体。正確に言うと、ロボットと化した老婆がひとり」
「そんなことあるのかよ?」
僕の野次を聞き流し、安村は続けた。
「いつ死んでもおかしくないと宣告されている老婆だ、それから長くは生きられなかった。ある日、快活に動いていたロボットの動作が、ピタッと止まったんだ」
「老婆が亡くなったってことか?」
「そう。家には動かなくなったロボット一体だけが残された」
 SF小説の創作話を聞かされているような気分になって、少し緊張感がほぐれた。
「そうなってくると、残されたロボットは、まるで、墓だな」
「お前、知ってるのか?」
「え? 何を?」
「未来の墓は全てロボットタイプなんだ。なんだ、知ってたのか。それなら話は早い。未来の墓、つまりは、ロボットを買ってみる気はないかい?」