科学では解明できない病

微かに空気を振るわせ、荒れ果てた大地の上に、小型の宇宙船らしき物体は着陸した。
「これが人類を滅亡させた地球大戦争の直後の姿か……」
「思った以上に悲惨な状態だな……」
宇宙船らしき物体の中から、二つの生命体が地上に舞い降り、そこかしこに横たわる人間の亡骸に目をやった。

大量殺戮を目的に科学を進化させた人類は、自国の立場を優位にするために、独自のバイオ兵器を開発した。有事の際にそれを散布することを誇示し、諸外国に脅しをかけた。
ところが、われ先にと独自のバイオ兵器を開発し始めた結果、ある国が優位に立つどころか、一斉にそれらが地球に散布されれば、全人類が滅びてしまうという危機的状況を生んでしまった。
「それを実行するかね、普通。我々の先祖の愚かさには呆れてしまうよ……」
生命体は、熱を帯びた光彩を放った。
「グズグズしている暇はないぞ。早速、調査にかかろうじゃないか」
「そうだな」
生命体は同じ色に発光したかと思うと、俊敏な動きで辺りを飛び回った。
「ひとつひとつの亡骸を調べて、殺戮兵器と化した当時の科学の全てを調べ上げねば」
「了解!」
「二度とこんなことが未来に起こらないように。そして、過去のある時点に戻って、それを阻止するための手段を、我々の先祖たちに残してくるために」
二つの生命体は、瞬く間に別々の方向へと飛び去って行った。

「どんな感じだ?」
瓦礫の影に、ふたつの生命体は集まった。
「順調に情報を蓄積しているよ。このまま行けば、人類が滅びた時点で存在した、全ての科学的リスクを把握できるだろう」
「こちらも順調……と言いたいところだが、こっちの調査で、少し気になることがあったんだ……」
「ん? 気になること?」
「そうなんだ。どんな医学書や科学書と照らし合わせてみても、解明できない病があってなぁ……」
「どんな文献にも載っていない? そんな奇妙な病なんてあるのか?」
「あぁ……」
「どんな?」
「心臓と呼ばれる部位の近辺に、穴が開いてるんだ。この症状については、どんな文献を当たっても触れられていない」
「当時でも解明できなかった病原菌ということか? 人類の叡智は、自らを滅ぼすほどに進化したというのに、そんな病さえも克服できなかったというのか?」
二つの生命体は、困惑の色を放った。
「ともかく、この病の謎を解明できる文献を徹底的に探してみる。悪いが、手伝ってくれないか?」
「もちろん」
「じゃあ、よろしく頼む」
二つの生命体は、再び違う方向へと飛び去って行った。

「なんだか妙な文献を拾ったんだが……」
生命体は、埃まみれになった一冊の本を持ち寄った。
「何だ、それ?」
「絵がたくさん描かれていて、登場人物たちの会話が吹き出しの中に書かれた奇妙な文献なんだ。何かの物語だろうか?」
本を覗き見ると、そこには若い男女の絵が所狭しと描かれている。
「この本の中に、例の病の手がかりになることが書かれているんだ」
生命体はあるページを開いた。
「ここだ……。この登場人物が目から水分を流している部分」
「何て書かれているんだ?」
「どうやら、失恋という病のようだ」
「シツレン?」
「この文献によると、失恋という病は、心にポッカリと穴を開けてしまうみたいだ」
「どんな原理でそんな症状が?」
「それはわからない。ただ妙な話だが……」
「どうした?」
謎の病の恐怖に包まれながら、生命体は、ほのかに赤く発色した。
「この、失恋という病にやられている人間たちは、なぜか、他の誰よりも苦しそうな表情を浮かべているように見えるんだ……」
「化学兵器にも勝る恐ろしい病ということか……」