たぐり寄せる運命

早く先回りしないと、あの子が例の場所を通過してしまう。早くしないと、私の名声が失われてしまう……。

「なんか今日、妙な占い師から、超不吉なこと言われたんだよねぇ……」
会社帰り。同僚のアイコに打ち明けた。
「不吉なことって?」
心配そうな表情でこちらを見るアイコ。
「ここ数日のうち、階段から足を滑らせて、大怪我か、最悪の場合、死ぬかも知れないんだって。なんか、薄気味悪くない……?」
「どこでそんなこと言われたの?」
「M百貨店のエスカレーター横の薄暗い場所に、いつもいるでしょ?占い師の女の人。すごく暗そうな人……」
「あっ、知ってる、その人。でも、その人の占いって、めっちゃ当たるらしいじゃん。予知能力があるんじゃないかってくらい、当たるらしいよ」
「今、その情報、超余計なんですけど」
「ごめん……。不吉なこと言われてたんだよね?そんな妙な占い、ほんとかどうか分かんないけど、気をつけてね……」
アイコに妙な心配かけちゃったなぁ。
私鉄で帰るアイコとは、ここでお別れ。私は、地下鉄に乗って帰るので、ここからはひとり。なんだか心細い。気をつけて帰らないと。
人通りの少ない大通り沿いを、肩を強張らせながら、少し足早に歩いた。

どうやら間に合ったみたいだ。準備は万端。あとはあの子がこの階段を普段通りに降りさえすれば、私の名声は守られる。私の積み上げてきたものが守られる。

「えっ」
階段を見下ろしていた景色が、急に一変した。天井の景色。身体が宙に浮く感覚と、時間がスローモーションに流れる感覚。私、どうしちゃったんだろ?自分の意志で、身体が動かない。まさか、このまま落ちるの?階段で?足を滑らせて?えっ?階段?足?占い?占い師?
頭上に霞む逆さまの景色の中、階段の降り口の陰に、あの占い師の不敵な笑い顔が見えた。

「目撃者がいたんでねぇ」
見るからに幸の薄そうなその女は、両手を膝の上につき、俯き加減で俺の話を聞いている。
「あんたが階段にオイルを塗って、被害者が滑って落ちるよう仕組んだことが、複数の目撃者の証言から明らかになっているんだ」
「はぁ……」
女は生気のない声を漏らした。
「動機は?」
俺は女に詰め寄った。
「占いが……」
「え?」
そういえばこの女は、占いで生計を立てていると報告があった。それなりに有名な占い師らしいが……。
「占いの結果が、そう出たもんで……」
「占い? 占いがどうしたっていうんだ?」
「占いの結果は運命。外れるわけにはいかないもんで……」
「じゃあ何か? お前は自分の占いの結果を現実にするために、その結末が巻き起こるよう、企み、自ら実行したってことか?」
「えぇ……」
バカげてる。自分の占いのために、人の命を弄ぶなんて、気が狂ってる。
「人の命を、いったい何だと思ってるんだ!」
あまりの怒りに、俺は拳で机を強く叩いた。
「命? 全ては運命ですよ。占い師は運命を言い当てるのが役目じゃない。運命をたぐり寄せるのが、我々の使命ですから」
そう言うと、女は背中を丸めながら、ニタニタと笑い出した。
「そこまで言うなら、今ここで、俺の運命を占ってみろよ!」
ムキになった俺は、女に食ってかかってしまった。
「ニヒヒ、いいんですか? 占っても」
急に妖艶さを増した女の声に、不気味さを覚えながらも、「あぁ」と答えた。
「あなたの運命は……」
取調室の空気が、一瞬冷え込んだ気がした。
「警察署から逃走を計った占い師を制止しようとした際に、そばに置いてあるボールペンで首元を刺される運命にありますねぇ」
女は小刻みに肩を揺らし、再び奇怪な笑い声をあげた。
机の端に目をやると、そこには使い古されたボールペンが置いてあった。
「名声を失うわけにはいきませんから」