美男美女計画

「美男美女以外は、この日本から、容赦なく隔離します」
国家の方針として、それが発表された瞬間、日本国内に激震が走った。
今後の日本の景観を考えると、人としての見た目の醜さも、景観を損なう要因のひとつだとされ、この怖ろしい計画、美男美女計画が発令された。
――見た目のイケてない奴らは隔離して、美男美女だけの遺伝子を配合していけば、将来の日本人は、美しくなるだと……。バカげてる!
後日、全国民の中から、美男美女のリストと、俺たち隔離対象者のリストが、インターネットで公表された。
「おい!お前、隔離リストに入ってるじゃないか……」
リストを見た友人のS崎が、心配して俺に電話をかけてきた。
「こんなふざけた話があるか!いったいどんな基準で選んでるんだよ!」
電話に向かって、やり場のない怒りをぶつける。
「どうするんだよ、お前?美男美女計画の国家の狙いは、隔離じゃなくて……」
あることを思いついた俺は、S崎の話を待たずに電話を切った。そして、リストが表示されたパソコンの画面を睨みつけ、
「中央区の島田靖男かぁ」
声に出し、それを確かめると、椅子にかけたジャケットを掴み、全力で玄関へと向かった。
靴の踵を踏みつけたまま、ドアを開け、表に出ようとした瞬間、
「森田順平さんですね?美男美女計画の発令に伴い、隔離施設に連行します」
全身黒色をまとったロボットのような男たちが、マンションのドアの前に立っていた。
「えっ?なんのことだろ……?」
わざととぼけたフリをして間を取った俺は、男たちの隙を見て、走り抜けた。
――捕まってたまるか、バカ!

「あのリストを見た時から、こうなるだろうと思ってたよ……」
中央区の某マンションにたどり着いた俺は、二階の角部屋、目的の部屋のインターフォンを鳴らし、押し入った。
島田は冷静な表情で佇んでいる。
「でも、よく考えてみろよ。たとえ僕を殺して、僕がいなくなったとしても、次のターゲットが君になるだけだ。僕と同じ運命を辿るんだよ。これが、最下位の宿命さ!」
半狂乱になる島田の首を思いっきり絞めた。
美男美女リスト最下位の島田が消えれば、必然的に、俺が格上げとなり、隔離を免れることができる。
罪悪感に苛まれながらも、ぐったりと倒れ、息の途絶えた島田の見開いた目を、手の平でそっと押し下げた。
島田の部屋を後にしようと、玄関に立ち、ドアを開けた瞬間、目の前には、怖ろしい光景が広がっていた。
刃物や狂気を持った男たちが、亡霊のように俺を睨みつけている。
――殺される……。
島田の言っていたことは、このことか……。
島田を蹴散らして、美男美女リスト最下位になれば、当然、次の標的は俺になる。俺の存在を消せば、この中の誰かが、格上げになる。
俺は生唾を飲み込んだ。
その時、島田の部屋でつけっぱなしになっていたラジオから、ある文化評論家の深刻な声が聞こえてきた。
「これは国家が、隔離ではなく、絶滅を目的とし、醜悪な人間同士に殺し合いをさせるための策略なんですよ、要は」
――そうか……。そういうことか。国家は自らの手を汚さずに、醜い連中同士で、勝手に殺し合いをしてくださいってことか。
絶対に生き延びてやる!
ドアを閉め部屋に戻ると、力任せに窓を開き、マンションの裏口に飛び降りた。
人気のない裏通りを、全力で走った。
腐った国家の権力者が考える、意味のない計画に、背信もクソもない。これは逃走じゃなく、闘争だ。
駅前の三叉路を曲がったところで、偶然S崎に会った。
「S崎!さっきはごめんな!急いでたもんで、電話切っちゃって!」
S崎は心配そうに表情を曇らせ、口を開いた。
「無事に最下位になれたのか?」
「当たり前だろ!」
俺は誇らしげに答えてみせた。
「そうか……」
笑いながら呟いたS崎の手に握られたナイフが、俺の心臓をえぐった。