ある再会の風景

「どう?ここのパンケーキ、美味しいでしょ?ココナッツシロップが入ってるクリームがポイントなのよねっ」
風が心地いい昼下がり。街外れに佇む、洋風のカフェで友だちと過ごす時間。日常の喧騒を忘れられるこの時間がとても好き。
「ほんとだ、クリームがめっちゃなめらか。バニラアイスも食べやすいね」
「でしょ?私好みだったから、絶対に気に入ってくれると思ってたんだ!」
ブレンドコーヒーが注がれたカップを手に取り、少しだけそれを揺らした後、口に運ぶ。
ローストココナッツの香りの中に、コーヒーの苦味が混じる。オープンテラスの開放感の中、フレンチジャズに包まれサウダージの風を感じていると、時間を忘れてしまいそう。
二匹のコーギーを連れたマダムが若い店員と談笑している。高級な食器のウンチクを聞かせているみたいだ。壁際の席には、身なりを整えた中年の男性が新聞を読みふけっている。
店内の景色を何気なく見渡し、再びテーブルの上、パンケーキに添えられたパイナップルに視線を戻した。
フォークとナイフに手をかけ、もうひと口。クリームの甘みを堪能しようと目をつむった時、その声は飛び込んできた。
「やっと見つけた……」
唐突に響いたその声に視線を移すと、そこには深々と帽子を被った少女が立っていた。
「両親を捨ててきました。いえ、そもそも私には両親なんてものはいません。あなたが一番よくご存知のはずです……」
語気に静かな怒りを込めた少女の瞳が私を見据えている。昼下がりの緩やかな時間の流れを裂いて訪れた急な展開に、どう取り繕っていいのか分からず慌てふためいてしまった。
「どういうこと?」
「まだとぼけるの?」
「とぼけるって、何……?」
少女の確信を帯びた表情とは打って変わって、私の心の中は困惑していた。いったい、何?
言葉と表情と身振り手振りで、本当に身に覚えがないことを少女に示そうと試みたけれど、少女の怒気は静まるどころか、その怒りに任せ、私の方に歩み寄ってきた。
「こうされても、とぼけられますか?」
少女はそう言うと、私の被っているニット帽を勢いよく剥ぎ取り、私の額を指差した。
「それが証拠よ!」
「何するの?いったい何の証拠なの?」
「あなたの額にある、もうひとつの目よ!」
少女は自分の被っていた帽子も同じように剥ぎ取ると、これみよがしに見せつけてきた。自分の額にもある、もうひとつの目を。
「額にもうひとつの目を持つ人間なんて、この世にはあなたしかいない。だから私は確信したんだ。私は捨てられた子だって。私はあなたに捨てられたんだ!」
少女の三つの目から涙がこぼれ出した。
私もこの目のせいで、どれだけ親を恨んだか知れない。今はもうこの世にはいない両親。誰を責めてみても、私の身体から、これが消えてなくなることなんてないんだと、運命を受け入れられるまでにかなりの時間が必要だった。きっとこの子も、そんな風に辛い思いをして生きてきたに違いない。でも……。
「私は、あなたのことは知らないわ!」
目の前でむせび泣く少女に、ハッキリとそう伝えた。
「嘘よ!そんなの嘘に決まってる!どこまで私を放棄し続けるのよ!」
少女が私に掴みかかってきた瞬間、背後で椅子を強く引く音が聞こえた。
振り向くと、先ほどの中年男性が立ち上がり、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お譲ちゃん。お名前は?」
私に掴みかかったままの姿勢で、少女は答えた。
「エリナです……」
「エリナか。大きくなったね」
男性は少し戸惑うような素振りを見せた後、おもむろに自分の髪に手を添えると、曇った思いを振り払うように、勢いよくそれを剥ぎ取った。
「カツラ……」
不謹慎ながら、声に発してしまった。
しかし、よく見ると、それよりも衝撃的な光景が目の前にあった。
「エリナ。君は生まれた時に、ひとつ目を失ってしまったんだ。手術じゃどうにもならなかった。だから、エリナには本当は四つの目があったんだ。エリナがいま責めているその女性は、君には何の関係もないんだよ」
男性の四つの目が、こちらを向き、詫びるように瞬きをした。
「エリナ。今までお前を育てられずにごめん。これからはそばにいるからね」