同窓会

「ほら!卒業アルバム、持ってきたぜ!」
そう言って木村がテーブルの上に広げたのは、俺たちが小学生の頃の卒業アルバムだった。
濃紺の生地表紙に、希望という文字が箔押しされた、なかなか貫禄のあるアルバムだ。
卒業から三十年が経って、ようやく開催された、S小学校の初めての同窓会。告知から開催までの期間が短かったためか、思っていたよりも参加者は増えなかったけれど、木村が持ってきたアルバムのおかげで、話は面白い方向へと広がっていった。
「そういや、みんなでバカなアダ名を付け合ってた時期ってあったよね?」
清水が懐かしい思い出を掘り起こしてくれた。
「あったあった!うわぁー、懐かしい」
一瞬にして当時の思い出が蘇ってきた。
「こいつ、何てアダ名だったっけ?」
野々村がアルバムの中の一人の生徒を指した。
「そいつは、ヒゲだよ」
「そうそう!」
「元々、ヒデってアダ名だったんだけど、小学生のクセに、チャップリンみたいな髭が薄っすら生えてたから、ヒゲ」
「こいつは?」
「そいつはねぇ、確か……一直線だ!」
「そうだ!両方の眉毛が一本につながってるから、一直線ってアダ名だったんだよなぁ」
当時のクラスメイトたちが、アルバムの周りに群がり、ひとつの会話を共有している。
「この子は?」
「確か、エクボだよ。久保って苗字のうえに、笑うとエクボができるから、そのまま、エクボ。やっぱり男子から人気のある女子に付けられたアダ名は手加減されてるよね?」
みんなが首を縦に振り納得した。
そういえば今日、久保さんは来ていない。当時、モテていた女子のその後には、ちょっと興味があったのにと、残念な気持ちになった。
「この男子は?」
「そいつは覚えてるよ。確か、みぎひだりってアダ名だった!」
「なんで、みぎひだり、なの?」
「水泳の授業で着替えてる時に見たんだけど、そいつ、男の大事な部分にある二個のボールのぶら下がってる高さが、右と左、違ってたんだ。だから、みぎひだり」
「最低……」
エピソードを聞かされた数人の女たちが、大げさに表情を曇らせた。その仕草が、当時を思い起こさせ、胸が温かくなった。
「一品ってアダ名の奴、いなかったっけ?」
「いたいた!」
アルバムの持ち主、木村が、集合写真の右隅に写っている男子生徒を指差した。
「いつも弁当のおかずが一品しか入っていないから、一品。今思えば、酷な話だねぇ」
山手線ゲームを楽しむ子供みたいに、次から次へと、思い出した当時のアダ名を、口々に言い合った。
「ゴリラブタゴリラ」
「女将さん」
「ボビンケース」
「月面宙返り」
「毎日同じ半ズボン」
懐かしむ声と笑い声が交差し、なんとも同窓会らしい光景が、下町の居酒屋の中に広がっている。今日だけは現実を少しだけ忘れて、温かい思い出に浸るのも、悪くないな。
「そういや、お前のアダ名、なんだっけ?」
清水が小首を傾げながら俺を指差した。
「俺は……」
ついに俺の番が来てしまったかと、ほっこりした気分から一転して、恥らいが込み上げた。
「女湯……だったかな」小声で答えた。
「そうだそうだ!思い出した!こいつ、塾の帰りに、六丁目の銭湯の壁によじ登って、女湯を覗こうとしてたんだ」
「女湯に誰かクラスメイトでも入ってたのか?」清水につっこまれた。
「まぁ……。久保さんが……」
赤面する俺の顔を見て、テーブルを囲むみんなが大笑いした。そんな珍事も、月日が経てば、時効になって笑えるんだな。当時の自分の姿を思い浮かべると、滑稽過ぎて、笑いが止まらなくなった。
笑いすぎてヒクヒクと痙攣する腹を押さえながら、俺の対面に座っている男に目をやった。さっきから気になってはいたものの、一向に思い出せなくて、失礼とは知りながらも、誰なのかを尋ねてみた。
「俺、記憶力悪いのかな?ごめん、お前って、誰だっけ……?」
男は意外そうな顔をして、答えた。
「俺だよ!ほら、運動会の時の組み立て体操で、ピラミッドが崩れる事故があっただろ?あの時、下敷きになって死んだ、鈴木だよ。俺のアダ名、覚えてる?」