都合のいいメール

送信メッセージ欄には、『今夜、僕と一緒に夕食でもどうですか?』と書かれている。

そして、返信メッセージ欄には、『ぜひ行きたいわ!ちょうど、S山さんと飲みに行きたいと思っていたところだったの!』と。

 

そう、僕が開発したこのプログラムは、こちら側で送信メッセージを作成し、さらにあらかじめ相手からの返信メッセージを作成しておき、そのメールを指定の相手に送りつけることで、相手はまるでその内容を返信するつもりだったかのように、同じ内容のメールを返信してしまうという、とても都合のいいメールプログラムを開発したのだ。

 

このプログラムを使用してメールを送れば、絶対に僕なんかに興味を抱かない、いや、僕のことなど見下し忌み嫌うような、そんな高嶺の花とも呼べる女性をも、意のままにコントロールしてしまうことができるのだ。にひひ。

 

さて次は…。送信メッセージ欄には、『食事の後はどうしようか?』と書かれている。そして、返信メッセージ欄には、『一緒にホテルに行きたい…』と。よし、送信!

メッセージが送り出されるアニメーションと、送信中の文字。無事にメッセージの送信が完了したようだ。

 

その頃、そのメッセージを受けた相手の女性は、なぜかS山とホテルに行きたくて行きたくて仕方がないといった衝動に駆られ、「一緒にホテルに行きたいの…」とメッセージを返信した。

 

「おっ!返信が返ってきた!なになに、一緒にホテルに行きたいって?よしよし、このメールプログラムはなんて秀逸なんだ。これで、今夜のディナーもその後のホテルも、もう決まったのも同然じゃないか。」

僕のニヤつきは、止まらない。今宵、僕は、生まれて初めて女性を抱くことになるだろう。どんどんと高まる緊張感、そして高揚感。これらは全てこのプログラムのおかげ。にひひ。

 

おっ!そうだ。ホテルに行けたとしても、実際にそういった『大人の行為』をするってことを約束しておかなきゃマズい。最後の最後に、「そんな話はしてない!」なんて、ダダをこねられでもしたら大変だ。もう一通メールを送っておかなきゃ。

 

そうして僕は、送信メッセージ欄に、『もちろんホテルでは、君のことを抱いてもいいんだよね?』と。そして返信メッセージ欄には『もちろんです』と入力し、送信ボタン。

 

さぁさぁ、早く返事よ、返ってこい!「もちろんです」の返事が来れば、あとはすぐにでも電話して、会って、食事して、ホテルで…。にひひ。

おっ!返信が返ってきたぞ!

『メッセージ受信中』

よし開封しよう!

あれ?

『ウイルスメールにつき隔離いたしました』

バカヤロウ!なんでウイルスソフトが起動して隔離しちゃうんだ!ウイルスなわけないだろう!もう、隔離されたメッセージのファイルなんて探している時間がもったいない、もう一度、同じ内容で送ってやろう。

 

『メッセージ受信中』

よし!

『ウイルスメールにつき隔離いたしました』

また隔離かよ…。僕は彼女からの「もちろんです」のひとことを確かめたいだけなんだ。早くしてくれよ。

そうボヤきながら、もう一度、同じメッセージを送り、返信を受信、そして隔離という一連の流れ。何度も、何度も。ついに僕は抵抗することを諦め、隔離されたメッセージを直接確認して、「もちろんです」のひとことを確かめることに。

 

どこだどこだ、隔離されたメッセージってのは、どこだ。探しても探しても見つからない、その隔離された返信メッセージ。Cドライブの中も、Dドライブの中も、外部ディスクの中も、隈なく探してはみたものの、いっこうに見つからない。

 

「もう何時間探してるんだよ…全く。これじゃ、今晩、彼女と会えなくなってしまうよ…」

涙目になりながら、諦めかけたその瞬間、『隔離ファイル格納フォルダ』という名前のフォルダを発見。勢いよくフォルダを開ける僕。

 

その中には、先ほど何度も送信を試みたため、かなりの量の返信メッセージが。

「こんなに大量の『もちろんです』が返ってきてるよ。ほんと無駄な作業をしちゃったなぁ。」

そう呟きながら、何気なく一番上の返信メッセージを開封してみた。

 

『はっ?ホテル?行くわけないじゃん!バカじゃない?』

と書かれている。え?何が起こったのか、わけがわからず絶句。恐る恐る次の返信メッセージを開封してみる。

『だから、しつこいんだよ、お前!』

ど、どういうことだ…。頭が真っ白になり、すっかりパニック状態に。放心状態のまま、無意識のまま、残りの返信メッセージを順に開封していった。

『何回メールしてくるんだよ!』

『いいかげんにしろよ!今となりに彼氏がいるから、知らないよ。』

『どうやら彼氏が、あんたの送信メールのIPアドレスから、居場所を探ってるみたいだよ。』

『ははは、居場所、分かったって!』

『あらら、彼氏があんたのところに向かうってさ。知らないよぉ。彼氏、めっちゃ怖いからね。』

『彼氏、ただ今、出発しました!ぎゃはは。二時間後ぐらいには着くってさ!』

 

最後の返信メッセージを受信した時刻を見る。そして、時計も。一時間五十八分経過…。流れる汗。なんでこんなことになってしまったんだ…。プログラムにバグがあったのか…。なんでだ!なんでなんだ!

 

「ピンポーン」

 

インターホンが鳴る。

 

「ピンポーン」またしてもインターホン。「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!」何度も何度も、インターホン。頭はすっかり混乱してしまい、恐怖のあまり僕は蚊の鳴くような声で確認した。

 

「か、か、彼氏さんでしょうか…」

 

すると、ドアの向こうから、ドスのきいた太い声で、

 

「もちろんです」

 

 

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