笑劇竹取の物語

ほんの少し昔のある日、竹取の翁という者がいた。野山に入って竹を取っては、それをいろいろな事に使っていた。
その日も普段通り、野山に入って、せっせと竹を取っていると、少し先の方に根元が光る竹が一本あるのを見つけた。
はて、いったいあれはなんだろうか?と近づいてみると、なんとそれは、黄金に輝く竹の芽、竹の子だった。
あまりの神々しさにしばらく呆然としていた翁は、それを手の中に納めると、落とさぬよう失わぬよう、そっと抱きしめるように家へと持ち帰った。
「おい、ばあさんや、ごらん」
家へ帰るや否や、翁は持ち帰った竹の子を自慢げにばあさんに披露した。
「あらまあ、なんと美しい竹の子だこと」
翁の手の中で煌々と光を放つ竹の子を見て、ばあさんも感嘆の声をあげた。
「この竹の子は、大切に育てなきゃいかんのう」翁は微笑んだ。

それからというもの、竹取の翁は黄金の竹の子を大切に大切に育てていった。それはまるで我が子を愛でるかのように。
そんなある日、翁が炊事場を横切ろうとしたとき、鼻先に妙に芳しい香りを感じた。
はて?なんの匂いじゃろう?そう思いながら周りをキョロキョロしてみると、そこには愛らしい黄金の竹の子。竹の子からこれほどまでに芳しい香りがするのだろうか?と鼻先を近づけてみると、なんとそれは、今まで匂ったこともないほどに格別な香り。高貴というか流麗などとしゃちほこばったものではなく、そう、無性に食欲をそそる香り。それを匂うと翁はばあさんに声をかけた。
「ばあさんや、ちょっと食事の用意をしてくれんかのう?竹の子スープを作って欲しいんじゃ」翁はまたしても微笑んだ。

黄金の竹の子から作られる竹の子スープは、あまりに絶品で、村の者たちはもちろんのこと、その噂を聞きつけた都の人々もみんな、翁の家にこぞってやってきた。
「こんなうめえ竹の子スープは飲んだことがねえよ」
「なんちゅうええ香りのするスープじゃ」
その竹の子スープを一口飲めば、口の中いっぱいに広がる上品な春の香りに、思わず頬は緩み、訪れた人たちは一様に満足して帰っていった。

ある日、翁はばあさんをそばに呼んだ。
「ワシも近ごろ、料理の才能が花開き出してきたように思うんじゃ」
「そうかねえ?竹の子様のおかげと思うけれども」
「いいや、ワシのこの天賦の才を発揮して、竹の子スープをさらに美味しくして、もうひと財作ろうと思うとるんじゃ」
翁はそういうと、両の腕で金銀財宝を抱え込むような素振りをした。
「そこでワシは考えたんじゃ。あの竹の子スープの中に、ワシの考案した調味料を入れて、もっともっと美味しくしてやろうかと」
「よしなさいな、じいさんや。あの竹の子スープはあのままが一番美味しいんですよ、きっと」
「いいや、ダメだ。あの竹の子をもっと美味しく引き立てるためには、ワシの調味料が不可欠じゃ!」
声を荒げた翁は、その勢いのまま、そばにおいてあった調味料を掴むと、黄金の竹の子が浸かったスープの中に、シャシャシャと豪快に振りかけた。
すると、スープの中の黄金の竹の子は、それを拒むかのように、自ら鍋の中から飛び出し、隣の部屋へスルスルと逃げていってしまった。
「わあ!竹の子様!」
翁は慌てて竹の子の後を追って隣の部屋へと駆けていき、そっと竹の子を拾い上げた。すると突然、竹の子がしゃべり出した。
「調味料なるものを使用された瞬間に、私は無意識に助けを求めてしまいました。ですので私は帰らねばなりません」
帰る?どこへ?翁の頭はグルグルと仰天してしまい、何が何だかさっぱりわからなくなってしまった。ただ、この展開はもしや、昔話でよくあるアレではないのか?と思い、おそるおそる竹の子に尋ねてみた。
「帰るとはもしかして、竹の子様、月に帰られてしまうということですか……」
すると黄金の竹の子は、その姿勢を正し、潔く告げました。
「いいえ、隣町の中華飯店です」