十二の刻印

「もう十二時になる…。そろそろ帰らないといけないよ…」
ある国の王子様と、またある国のお姫様は、恋に落ち、清らかな思いで愛し合っていましたが、お互いの国の決め事により、夜の十二時になる前にそれぞれの国に帰らねばならないという、悲しい定めを背負っていたのです。
「またさようならなのね…」
「僕はこの時間が大嫌いだ。十二時なんて、なかったらいいのに」
胸を締めつける寂しさを無理に剥がすように、二人はそれぞれの国へと帰っていきました。

「そうだ!」
澄んだ星空に流れ星が行き交う秋の夜、スケートリンクのようなオリオンの隙間を、手をつなぎ散歩している時、王子様が叫びました。
「十二時なんて来ないようにしてやろう!」
「どういうこと?」
王子様の腕にぎゅっとしがみついたお姫様は、不安そうな表情で王子様の顔を見上げました。
「お互いの国に立つ時計台に架かる時計の文字盤から、十二の文字を剥ぎ取ってしまえばいいんだ!」
王子様はひらめきに背を押されるがまま、お姫様の腕をぐいっと引っ張り、オーロラの竹ぼうきにまたがると、粉雪のような星の軌跡を描きながら、時計台を目指しました。
ふわり、時計台の前に落ち着くと、透かし彫りの時計の中に手を伸ばしました。
「これで僕らは二度と離れ離れにならなくて済むね!」
ブチッという痛みを伴うような音を轟かせ、文字盤からは十二の文字が剥ぎ取られました。

王子様とお姫様は、それから数日間、一秒も離れずに泡沫の時間を過ごしました。
時刻は十二時前で止まったまま、空に浮かぶ真ん丸い月や数多の星たちも、じっと佇んだまま。太陽はギザギザ山の向こうにじっと沈んだまま、深い眠りから覚めません。
星屑で編んだ糸で、動物たちのシルエットを作って遊んでいた二人のもとに、小さなカエルが息急き切ってやって来ました。
「王子様、お姫様、町では大変なことが起こっているのをご存知ですか?朝が、来ないんです!だから、ニワトリも鳴くことができず卵を産むことができませんし、朝露を楽しみに待つ木々や草花たちも、潤うことを忘れてしまっております。動物たちも目覚めることができずに、眠ったまんま、身体が固まってしまって動けなくなっていますし、王子様、お姫様、ぜひ我々をお助けくださいまし…」
王子様は自分の仕業で町や森のみんなが苦しんでいる様子を想像し、その罪の重さに深い反省の色を浮かべ、ひどく胸を痛めました。
「カエルさん、それは僕の仕業なんです。僕がやったことなんです。お姫様と離れずに過ごしたいという身勝手な願いを叶えたくて、時計台の時計の文字盤から、十二の文字を剥ぎ取ってしまったのです…」
「なんと…。そうだったのですか…」
「みんなには大変申し訳ないことをしてしまった。すぐに文字盤へ十二の文字を戻しに行かなければ!」
王子様が文字盤に十二の文字を貼り付けると、時計は何事もなかったかのように動きだしました。山の向こうでは、太陽が目をこすりながら大きなあくびをひとつすると、世界を朝焼けに染める準備にかかりました。

それから幾日かが過ぎ、町や森にはいつも通りの日々が流れていた頃、小さなカエルは再び王子様とお姫様のもとを訪れました。
「王子様、お姫様、あれから寂しい思いをしていらっしゃいませんでしょうか?」
モジモジしながら小さなカエルは言いました。
「何か我々にできることはございませんでしょうか?」
申し訳なさそうに縮こまるカエルに王子様は慈しみを込めた声でこう言いました。
「もう、十二の文字など剥ぎ取らなくても、僕らは寂しい思いをしなくて済むんです!」
「なんとまあ…」
王子様とお姫様は仲良く手をつなぎながら、小さなカエルに向かって微笑みました。
「僕らは結婚したのです!だからもう、十二時どころか、いついつまでも一緒に離れずに過ごしていけるのです」
小さなカエルの顔は一瞬にしてパッと輝き、あまりの喜びに高く飛び上がりました。
よく見ると、二人の薬指には、たくさんのダイヤモンドが散りばめられ、満天の星空よりも美しく輝く指輪がはめられているのでした。
そして、手首のあたりには、黄金に輝く透かし彫りの腕時計がキラリと光っていました。もちろん、十二の刻印は、どの文字よりも燦燦と鮮やかに輝いているのでした。