自分探しの終結

俺の自分探しの旅の終結を話したいと思う。

「こんな腐った社会で、歯車のように自分をすり減らしながら生きるなんて、まっぴらごめんだ。俺は社会に反骨精神剥き出して生きてやる」

俺はずっとそう息巻いていたんだ。
別にカッコつけてたわけじゃない。むしろカッコつけずに生きることを望んでた。自由なんてものが社会にあるなんて、そんな幻想はもちろん抱いちゃいないし、ただ、不自由という牢獄の中に、自らノコノコと囚われにいくような愚かなことは、絶対にしたくない。そう心に決めていた。わかるだろ?
そんな思いから俺は、あえて自分自身を過酷な状況に追い込んで、さらにもっと自分に厳しく、ほんとの俺を探してやろうと思い、

「山、登ってくるわ」

とだけ周りに言い残し、俺は街を出た。
雪山は人を強くするんだろ?俺もそう実感した。登ってる間、常にひとり。つまりは自分との闘いだ。自分に負けたら、そこで終わってしまう。だから俺は、目いっぱい自分との対話を楽しみながら、時に鞭を打ち、時に優しさを持って、俺の中の俺と向き合った。

「今までの俺、やっぱ甘かったわ。はみ出して生きることが美徳じゃねえ。俺なりの生き方で突き進む道が、気づけば俺だけの道になってる。そんな生き方しなきゃダメだな。ありがとな、気づかせてくれて」

俺は、俺の中の俺に感謝した。もう既に、一回りも二回りも大きな人間になっちまったかも知れない。今後の俺が楽しみだ。

そんな充実した時間を過ごしていた俺に、突如猛威が襲ってきた。やっぱり雪山は甘くない。おおらかな存在に見えて、凶暴だ。
ぼんやり見える遙か向こうの方で、ぼわっと雪煙が立ち昇った。その異変に気付いた瞬間には、もう事態は手遅れだった。
厚さ十メートル以上もあろうかという強大な雪の激流が、俺を目がけて襲ってきた。
雪山になんの予備知識も持たずに登山した俺は、雪崩が起こる気配や予兆などにも全く気付けず、今思えばほんと、自分自身に無謀な旅を課していたこと、ちょっぴり反省。
雪崩に飲み込まれた俺は、死をも予感したけど、身体の上に重く圧し掛かっていた雪の中から、一時間ほどかけてがむしゃらに這い出し、それはドラマか小説かと疑ってしまうかもしれないけど、俺の目の前に、小さなボロボロの小屋を見つけたんだ。
「助かった…」俺は思わず声にならない声を発した。

俺は小屋の中に、身を放り投げた。
その辺に散らばっている藁をかき集め、自分の身体の上に乗せていった。頼りない温かさが、少しだけ俺を癒してくれた。
外はビュウビュウと豪風が吹き続けていた。こんな体験をした後じゃ、もう何が起こっても怖くない。俺は、恐怖にも打ち勝ったんだ。
そう言い聞かせてみたものの、体力の限界には、抗えないもんだ。あろうことか、どんどんと意識が遠のき薄れていった。
体温はみるみる下がっていき、手も足も、その指先には全く意志が伝わらず、鼻のひとつもほじれないくらいに、まるで役に立たなかった。さっきまであんなに安心を与えてくれていた小屋の中も、今じゃ視界が霞んで、自分がどこにいるのかさえも分からないくらいに、か弱い映像になってしまっていた。
このまま、俺は死んで行くのだろうか?
そう思ったとき、俺は、母の幻を見た。目の前にぼんやりと像が浮かび上がったんだ。
死ぬ間際に母の幻影が、俺を見届けに来てくれたのかも知れない。
俺はそんな状況下の中にいるにも関わらず、頭の中にオルゴールの音色でメロディを奏でた。死を演出してやりたかったんだ。
その時、バチンッと頬に激しい痛みを感じた。母の幻影が、俺の頬を激しく、ぶった。

「あんた、いつまでそんな情けないことしとるんや!」
「え…。幻じゃないのか…?」
「何を幻とかアホなこと言うとるんや!あんたがしょうもないことしでかすんちゃうやろか思て、こっそり後つけてきたんや」
「……」
「ほんま、あんた早よ就職せんかいな!ええ歳こいていつまでも親のスネかじって、自分で情けないと思わんのかいな!子供みたいなことしてんと、ええ加減、就職しなさい!」

母はそう言うと、動かなくなった俺の身体をひょいと担ぎ上げ、その背におぶった。
母の背中におんぶされ、俺は下山した。
と同時に、俺の自分探しの旅は終結した。