ロボットのニーズ

「これで我が社の業績も右肩上がりになるだろう。ご苦労。よくやった」

M社は、企業向けテレフォンセールスの新戦略を打ち出した。それは高度にプログラミングされたロボットを使って、コールセンターからアウトバウンドによる販売を徹底すること。
M社の開発部が用意したそのロボットは、あるルートから入手された高機能ロボットを原型にし、そこに応酬話法や二者択一話法など、相手の返答から分岐した最適な解を導き、返答させるスクリプトを組み込んだ優れものだ。
完璧に人間の声を再現した発話技術を持った原型を改造し、あらゆる感情表現をも可能にした。それはまるで万能の営業マンのよう。

ロボットはインターネットの検索エンジンから抽出した企業の電話番号へとコールした。
「今、当社のソリューションは御社の課題を解決し、さらなる成果をもたらします」
もちろん電話を受けた担当者は、テレフォンセールスを嫌い、曖昧な返答をする。
「御社が競合他社と競り合うためには、圧倒的な強みを作ること。それこそが、業界ナンバーワンになるための課題だと思われます」
競合他社や業界ナンバーワンなど、聞こえのいいフレーズばかりが飛び出すものの、自社の悩みをズバリ言い当てられては、訝しげに受けていた担当者も話を頷かざるを得ない。
「今このソリューションを導入し、即座に営業戦略に組み込むことこそが、御社にとっての最優先事項かと思われます。危機的状況に陥ってしまうその前に」
半ば圧力をかけられた感は否めないが、もとより誰かに背中を押されれば、首を縦に振ってしまうその担当者の性格を見事に突き、
「わかりました。御社のソリューション、ぜひ導入させてください」
見事、商談を成立させてしまう、ロボット。

ロボットはいつもと変わらず、抽出した電話番号へ営業セールスを続けていた。
「ですから、今御社にとって足りていない点は、施策実施後の検証と改善にあります」
「はい、確かにおっしゃる通り」
電話を受けた担当の男は、妙に説得力のあるその話法に、まるでコンサルティングを受けているような気分になっていた。
「そこでぜひ、当社のソリューションを…」
ふと、男は電話口のセールスマンの声に引っかかった。ビジネス上の電話でこんなことを言い出すのも妙かと思ったが、男は我慢できずに電話口の相手へと尋ねた。
「お前、タダシじゃないか?その声、タダシだよなあ?初めに電話を受けてその声を聞いた瞬間、一発でわかったよ!なあタダシ!」
ロボットは予期せぬ会話が発生したため、緊急対応時のスクリプトに切り替えた。
「おっしゃっている意味がわかりかねます。またこちらから改めさせていただ…」
「お前、M社に勤めてるんだな!よかった!お父さんもM社の近くで働いてるんだ。今すぐ会いに行ってもいいか?なあ!」
男は興奮しながら一方的に話し終えると、勢い良く電話を切った。M社に向かうために。

「開発部長、今の応対お聞きになられましたか?」
「ああ…」
「今の妙な男、ロボットを息子か何かと勘違いしていたようですが…。しかもあの様子じゃ、我が社にやって来るみたいですが…」
「マズイな…。ロボットの存在がバレてしまう。この事実が世に出てしまっては、社にとってマイナスどころか、大打撃を喰らってしまうぞ…」
「あっ…」
開発部の監視モニターには、M社のエントランスに現れた男の姿が映し出された。
「マズイな…」
男は受付に置かれた部門表に目をやり、嬉々とした表情で、コールセンター部を目指した。
エレベーターを降り、すぐ隣の部屋にかかるプレートで部署名を確認すると、大げさなノックを打ち鳴らし、部屋へと入っていった。
するとそこには、一体のロボットが。
男は暫し立ち止まり、小さく肩で息をすると、ロボットの方へと迷いなく駆け寄っていった。
「やっぱりタダシだったか!やっと会えた!」
男はロボットを抱きしめた。ロボットはただただ無表情に、パソコンのマウスに手を置いている。
「子宝に恵まれなかった我が家庭に、初めてやって来てくれた息子、家庭用子息ロボットのタダシ!盗難の被害にあったと思っていたら、なんだ、こんな所にいたのか!見つかってよかった!さぁ、家に帰ろう」