核ヲ無効化セヨ

「山吹一尉、ついにM型殺戮兵器のプログラム開発が完了いたしました!」
おびただしい数のパソコンに囲まれた男は、小型の電話を握り締めながら、大声で叫んだ。
「うむ。よし、すぐに全世界に発表するぞ」
電話越しからは、重々しくも喜びに満ちた声が返ってきた。

現代では、戦争というものは、完全になくなった。
人々を恐怖に陥れる核兵器や、目に見えない化学兵器、仰々しい戦艦など、それらを実際に作る必要はなくなった。
ただ、どの国よりも強い、つまりは、どの国をも滅ぼすことのできる、唯一無二にして最強の攻撃兵器を開発することのできるプログラムを開発した国、その国が、実質、世界を牛耳ることができるようになった。
だから、実際に兵器そのものが作られることはなくなった。
もう、人々が無駄に血を流し合うこともなければ、凶悪な兵器が存在する意味さえもない。

「司令官、先の開発で我々がプログラム開発を行い発表を行ったM型殺戮兵器を凌ぐプログラムを、隣国が密かに開発中とのこと」
「それはまずいな…」
「ようやく外交も、我が国主導で動きだしたばかりだというのに」
「今それを発表されてしまっては、形勢が逆転してしまうな…」
「はい。ですので我々も新型であるN型のプログラム開発を急ぎたいと思っております」
「頼むぞ」

シュンサクは、授業中にも関わらず、教科書をパーティションのように机の前に立て、隠れてノートパソコンのキーボードを打ち続けている。
「おい、シュン。何やってんだよ?」
隣の席のヤマダが、ヒソヒソと話かけた。
「なあに、今プログラムを開発してるのさ」
「なんの?」
「絶対に誰にも言うなよ?」
シュンサクは、人差し指を唇の前に突き立て、少し目を細めた。
「世界には、凶悪なプログラムが蔓延ってんだろ?戦争が終わったなんていっても、あんな兵器がもし実際に作られて使われちゃったら、世界なんかあっという間に吹っ飛ぶぜ」
「そ、そうだな…」
「だから俺は、世界に存在する『攻撃』をすべて無効にしてやろうと思ってんだ」
シュンサクは、清い笑みをニタッと浮かべた。
「より強い攻撃、より強い攻撃って開発され続けてるんだぜ。そんなおどろおどろしい世界じゃ、とても穏やかに暮らせないじゃないか」
攻撃を企てるプログラムをすべて無効化させるウイルス。
「ってやつを、今開発してて、それがもうすぐ完成す…」
机の脇でドン!と足を踏み鳴らす音が響いた。
「おい、シュンサク、授業中に何をやってるんだ?そのノートパソコンを貸しなさい!」
「嫌です…」
だって、もうすぐ、世界を平和にできるんだぜ。
「ダメだ!没収する!」
シュンサクは、先生にノートパソコンを奪い取られる気配を感じ、急いでパソコンを掴み取ると、そのまま教室を飛び出した。
邪魔されて、たまるか!
その怪しい行動に、先生も全力でシュンサクの後を追いかけた。
クソ!没収されて、中身をイジられでもしたら、開発が水の泡に終わる。
こうなったら、先生に捕まる前に、プログラムを稼動させるしかない…。
シュンサクは、皿のよう平たくした左手にノートパソコンを乗せ、右手で残りのプログラム数行を書き入れた。そして、
ポチッ。

最後のクリックの音が響いた瞬間、全世界の攻撃兵器のプログラムは、次々とバグを起こし、自己消滅していった。
世界は、攻撃の手段をすべて失った。

「逃げる奴があるか、バカタレ!」
バシンッ!
先生の持つ、分厚い参考書は、シュンサクの頭で激しく音をたてた。
「授業中は、しっかりと授業に集中しなさい!わかったか!」
「はーい」
さすがに、先生の攻撃は、無効にできなかったみたいだな。