大秘宝は恋心

毎日、おんなじことの繰り返し。ほんとに退屈で、イヤになる。何かおもしろいこと、ないかなあ。何かおもしろいこと…。

タケルは部屋の中、自分の机に向かいながら、目の前に置かれたコミックのページを、パラパラ漫画のように無造作にめくり続けている。
意味のない時間をただダラダラと過ごしながら、ぼんやりと空想を続けているうちに、あることを思いついた。

僕が、世界に宝を埋めてやる。

空想の世界に突き動かされるまま、タケルはカバンをガサガサと漁り、中から地理の教科書を取り出し、地図のページを勢いよくビリッと引きちぎった。
広いひろいなんて言われてる世界も、教科書の中にあったら、なんてちっぽけに見えるんだ。よし、この中に、ひとつ冒険を。この辺りの小さな島でいいだろう。決めた!
タケルはインクのかすれた赤いペンを取り出し、広大な海にポツンと佇む、小さな小さな島の上に、バツ印を書き込み、その脇に汚い文字で『大秘宝』と書き入れた。
それだけで、世界のどこかで、何だかとてつもない冒険が始まるような、そんな気がした。

それから数日後、ベッドに横たわりウトウト居眠りをしていると、耳元で微かに、しゃがれた男の声が聞こえた。

「よう!若造!島の秘宝は全ていただいたぜ。俺が海賊王だ!お礼に、財宝の半分を置いてくぜ!じゃあな!」

起きぬけのトロンとした目を擦りながら、声の主を見てみると、小指ほどの大きさの男が、枕元に立っている。
しかも、よく見てみると、ズタボロの海賊服を見につけ、ドクロが描かれた旗を背負った、それは、ホンモノの海賊。

「あ、ああ、うん」
タケルは返事にならない返事を男に返した。
「じゃあ、俺は次の旅に出るからな!」
男は机の上に飛び移ると、バサッと置かれたままの地図の中へと消えていった。
「まさか…」

タケルは先日の海賊の一件をもう一度確かめてみたくなり、今度は、別の小さな島の上に、もっと大きなバツ印を書き込んでみた。
するとどうだろうか、やっぱり数日後に、耳元で声がした。

「ヘイ!若造!今は俺様が海賊王だ!今度の財宝はとてつもなく豪華だったぜ。ほらよ、礼を置いてくぜ!じゃあな!」

ぶっきらぼうにそう言い放つと、前とは違う海賊服に、前とは違う旗を担いだ海賊王の男は、一目散に地図の中へと消えていった。
「へへへ、やっぱりだ」

それからさらに数日がたったある日、またしても耳元で、小さな声が聞こえた。
あれ?地図には何も書いてないはずなのに。

「ちょっと、そこの旦那、目覚めてくださいや!」

タケルはパッと目をあけ、声のする方を見やった。そこには傷ついた海賊の男がひとり。

「先だっての航海で、敵の海賊の攻撃にあっちまって、今、一味は崩壊寸前なんですわ。一味が崩壊ならまだしも、ワシらの海賊団のボス、船長が死んでしまいやして…」
海賊の男は、弱々しくタケルに訴えかけた。
「そこでですな、若い旦那。ひとつ相談がありやしてですねえ。何かっていうと、ワシらの一味の船長に、なってはくれんだろうか?」
タケルは面食らった。え?僕が船長?でも、何だかおもしろそうだ。退屈な毎日から抜け出せそう。
「別に、いいけど」
「よし!話が早い!そうと決まれば、船長!どんな財宝を探しに行きましょう?」
ウキウキと弾む声をあげる男。
「え?」
「え、じゃねえよ!船長。海賊はお宝を探しに行かなきゃ、海賊の意味ないでしょうが!今、船長が欲しいものは、何ですかい?」
そ、そうだな。なんだろう?好きなもの?好きなこと?好きな子?片思い。同じクラスのマイコ。想いを伝えたい。付き合いたい。付きたいたい。付き合いたい!

「次の宝は、すぐ近くだ!三丁目のコンビニの隣!」

男に向かってそう叫ぶと、タケルは、赤いペンで、日本の上に大きなバツ印を殴り書きすると、書いたままカバンにしまい込んでいた手紙を握りしめ、一目散にドアを飛び出した。
タケルの後ろ姿を追うように、男は叫んだ。
「おいお前ら、新しい船長の後に続けー!今度のお宝はデカそうだぞー!」