ジャマハゲ

「悪い大人はいねぇか?」
「悪いことをしてる、悪い大人はいねぇか?」

鬼の面をグワッと被り、ケラミノ、ハバキを身にまとい、大きく鋭い出刃包丁を片手に持った、ジャマハゲがやってくる。
鬼気迫る形相と怒声、悪いことをしている大人たちのもとへ、ある日突然、ジャマハゲは現れる。
そうして、事の是非を問い、悪と判断するや否や、その命を一瞬のうちに奪っていく。問答無用に、その凶暴な出刃包丁をひと振り、社会の悪、つまりは、邪魔者は殺処分されてしまう。
人々はその狂気の沙汰に初めのうちは、恐れおののいていたが、自分たちの周りから、悪い人たちが消えていなくなるのを実感すると、やがて人々は、ジャマハゲを正義の英雄だと奉るようになっていった。

「悪い大人はいねぇか?」

ジャマハゲは、都内のオフィス街にあるビルの一室、一見ごくごく平凡に見える、ある企業の事務所の中に入っていった。

「悪い大人はいねぇか?」

事務所内では、まさか自分の勤める会社に、ジャマハゲに消されるような人間がいるなんて夢にも思っていなかったのだろう、皆が皆、硬直した表情で、ジャマハゲを見つめている。

「お前らの会社の社長は、裏で政治家とグルになって、ある計画を実行しようとしている。それだけならまだしも、従業員は全員、知らないところでその手伝いをさせられてるんだ。お前らの気づかないところで、ジメジメと計画は進んでいる。悪いが、お前たちの社長は、殺処分とさせてもらう」

野太い声でそう叫び終えると、ジャマハゲは、迷うことなく社長室へと入って行き、たった一回の悲鳴だけを事務所内に轟かせ、何事もなかったかのように事務所を去っていった。

その日もジャマハゲは、ある不正を行っている広告代理店の幹部連中を、総ざらいしてきた。ある大きな広告枠を廻って、数多の中小企業から金を不正に奪い続けていたため、ジャマハゲが、殺処分に訪れた。

「全く、自分の私腹を肥やすためだけに生きている奴の、なんと多いことか」
俗世間の悪の多さ、人間の不甲斐なさに呆れ返りながら、住みかにしているほこらへと向かう途中、ある一組の男女の口論を目にした。

「お前は、どうせ女だろ?偉そうなこと言える権利なんてないんだよ!」
「女も男も関係ないわ!」
「所詮、女なんて、男に従ってりゃいいんだよ!黙って俺の言うことに従え!」
そういうと男は、女の肩を握り拳で、その力を示さんとばかりに、殴りつけた。
それを見ていたジャマハゲは、急に踵を返し、その男のもとへとにじり寄った。

「悪い大人はいねぇか?」

ジャマハゲは、出刃包丁を男に突きつけ、
「男の力は、弱いものを守るためにあるんだ。それなのに、自分より弱い人間を傷つけてどうなる?自分の力の意味を履き違えるな!」
そう叫ぶや否や、ジャマハゲは、出刃包丁を男の首もとめがけて一気に振り下ろした。
男は叫ぶ暇も逃げる暇もなく、一瞬のうちに、殺処分された。

「あ、ありがとうございました…」

目の前の衝撃に気圧され、強張った表情の女が小声で礼を伝えたとき、猛スピードで真っ黒な車が三台、すぐ脇の道路に停車した。
中からは屈強な男たちが大勢と、邪悪なオーラをまとう、妙に理知的な男たち数人が、ジャマハゲの方に向かって、歩いてきた。
ジャマハゲはその場を走り去ろうとした。
しかし、屈強な男たちが、ジャマハゲの両腕を強引に掴み、顎をクイッと動かし指示を与えた理知的な男の命令に従うように、ジャマハゲを車の中へと引きずり込んだ。

「どうやらあのジャマハゲは、国が指定していない人間、つまりは、我々のリストに載っていない人間を、勝手に処分してしまった模様です。つい先ほど、処理班に依頼し、既にあのジャマハゲは殺処分済みですので」
「ごくろうだったな」
「いえいえ、とんでもございません」
「そんなことよりも、君、例の殺戮兵器の密輸はうまくいってるのかね?」
「はい、着々と進行しているとの報告が先ほど、国際犯罪組織ルイーダのほうから入って参りました」
「うむ、よろしい」

頷く男の首元には、国家のバッヂが歪に光っていた。