車内恋愛

ん?

やけに目がよく合う、斜め右に立つ女性、電車内。僕がチラリ、そちらに目をやると、一瞬目が合い、女性のほうが瞬時にそらす。もう、何度目だ?

 

それにしても彼女、とってもかわいいな。細身のスタイルに丈の長いブーツを履きこなして、タレントでいうと、AKB48の大島優子をちょっと長身にした感じ。

あっ!また目が合った。

でも、こんなかわいい子が俺なんかに興味があるわけでもないだろうし、ましてや好き、だなんてこと、いかんいかん、叶わぬ妄想は体に毒だ。毒される、毒される。

げっ!またこっちを見てるような気が。好きなのか?好きなのか、俺を?いや、ダメだダメだ。俺なんて、生まれてこのかた、あんなかわいい女性と、もちろん付き合ったこともなければ、口をきいたことさえない。そんな三流のお笑い芸人みたいな容姿をブラ下げた俺が、大島優子似のあんな子と?バカ!やめろやめろ!

 

そんなバカな妄想に耽りながら、自分の中での消化しきれぬせめぎ合いを終えられぬまま、電車は地元の駅に。さぁ、電車を降りて、家に帰ろう。

おっ!あの子も、この駅かぁ。それにしても初めて見る子だなぁ。

 

人々はまるで組み込まれたプログラムのように、一斉にホームから改札への階段をのぼり、電子定期などをいそいそ取り出し、ピッ、ピッ、電子音と靴音が混合し、響く。

チラリ左に目をやると、一番左端の改札から、あの子が。俺の家へと帰るには、改札を出て、左。あの子は?

おぉ!改札を出て、左?

俺が、一番右端の改札から通過したため、あの子の後ろを追うかたちで、地上へと上がる階段へ向かう。彼女は、俺の前方3メートル手前を歩いている。

 

いつもは改札を出て左へ向かう人の数は、どちらかというと、逆側へ向かうそれより多く、やや混雑して、時には地上へ上がる階段を、肩をこすり合わせるようにして、狭苦しくのぼる日もあるくらいなのだが、今日は、なぜか、俺と、彼女だけ。

 

そんなことを考えている間に、彼女が階段をのぼりはじめ、続くようにして、俺ものぼり始めた。

こういう時、前をのぼる女性のパンツを覗きたい衝動と、覗いているのを、後方の人たちに見られたらヤだなという羞恥心とがぶつかり合い、結局、ほんの一瞬、見たのか、見ていないのか分からない程度だけ見上げ、終了。そんなことがよくある。今日も、そんな感じで、一瞬だけ。

 

その時、地上から吹き降ろす風が、壁にぶつかり、フワッと舞い上がるようにして、二人を包んだ。

ヒラリ。

彼女のスカートがめくれ上がり、一瞬下着が見えた。嬉しさと同時に、目にした光景の中に、一点の疑問が。

今、下着に文字が書かれてなかったか?そんなわけないか?いや、田端、そう、俺の名前が書かれていたように見えた気がしたが、まさかそんなはずはないよな。でも?

 

彼女が地上に上がりきる直前に、再び先ほどの風が、僕らを包むようなかたちで吹き上げた。またもやめくれ上がるスカート。今度は、目を凝らして、スカートの中、彼女の下着を睨みつける。

 

え?

 

え???

 

そこには、「田端和志さん、好きです、付き合ってください」の文字が。

 

彼女は地上に上がりきり、続く俺も、完全に身を地上へと。

 

振り返る彼女、少し照れながら微笑む俺。そして、抱き合う。きつくきつく、抱き合う。後ろから階段をのぼってくる人は、誰もいない。通りを歩く人たちが、抱き合う俺たちを、チラリ目をやり通り過ぎていく。そう、それはまるで、階段で上を歩く女性の下着を覗くかのように、チラリと。