ある淋しげなプラットフォームにて

生きている中で、もう二度と会えなくなってしまった人に、再び会ってみたいとは思いませんか?
離れ離れになってしまった人、どこか遠くへ行ってしまった人、今では連絡先も分からなくなってしまった人。そんな人のなかに、できることならもう一度、会って話をしたい、想いをきちんと伝えたい、そんな人がいらっしゃるのではないでしょうか?

このプラットフォームから出発する電車に乗れば、あなたが再び会いたいと願う人に、会いに行くことができます。電車はゴトンゴトンと、あなたをその人のもとに、連れて行ってくれることでしょう。ただし、この電車に乗車できる定員は、たった、ひとり。たったひとりだけが、この電車に乗り込み、再会を希望する人に会いに行くことができます。
乗車料金は、お客様の自由。それでは、乗車をご希望のお客様は、このプラットフォームから、ご乗車くださいませ。

アヤは焦っていた。
「どうしても今夜、あの電車に乗って、彼に会いに行きたいの」
勇みがちに周りの社員にそう告げ、アヤは会社を飛び出した。会社から駅へと続く道は、早めの帰宅組のサラリーマンやOLたちで、ごった返していた。追い抜きざまに肩を激しくぶつけながら、アヤは走った。幸いにも、ひとつも信号に足止めされることなく駅に着き、少し安堵しながらも、勢いを緩めることなく階段を駆け下りた。
ちょうど到着したばかりの電車に乗り込み駅を目指す。彼に会えることを、心から待ち焦がれながら。

ターミナル駅へと辿り着いたアヤは、地上へつながるエスカレーターの方へと向かった。
「あのエスカレーターを昇れば、プラットフォームだ。あぁ早く電車に乗っちゃいたい」
そんな独り言を心に浮かべながら、息を弾ませ走るアヤ。すると四方八方から、老若男女、さまざまな人たちが、エスカレーターを目指し走ってくるではないか。しかも皆、血走った目で、まるで怒り狂ったかのような表情で、一本のエスカレーターへと押し寄せてくる。

「え?まさか、この人たちみんな、あの電車に乗ろうとしてる人なの…」
ようやく事態を飲み込み怖気づくアヤ。怖い怖いコワイ…。
みんな、こんなに必死になるものなの?目の前では、恐れている以上に、危険な状態が続いていた。ある男は、行く手を阻む男に殴りかかり、またある女は、奇声を上げながら、別の女の髪の毛を引っ張りなぎ倒した。瞼から血を流す男。片方のヒールが脱げた女。アヤはその状況に怯えながらも、再び彼に会うんだという強い想いを胸に、一目散にエスカレーターへと辿り着いた。

地上の様子はさらに凄まじく、人々が我先にと争い合っている。アヤは戦々恐々としながらも、襲いかかってくる男に殴りかかり、足首をつかむ女を蹴りつけた。そして今にも電車に乗り込もうとする前方の二人の男に向かって、そばに設置してあった、大きな陶器の灰皿を投げつけた。灰皿は見事に二人の頭部を捉え、男たちはその場に倒れ込み、動かなくなってしまった。

「やった!わたしが電車に乗れる!これで、彼に会いに行けるわ」

乱れた服をぼんやり見つめ、息を落ち着かせるように深呼吸した。客がからっぽの電車の中、アヤはひとり、幸せな気持ちで満たされていた。ドアよ、早く閉まれ。電車よ、彼のもとへ早く出発しろ。気持ちとは裏腹に、いっこうに閉まらないドア。すると、静かに車内アナウンスが流れだした。

「ご乗車のお客様。お客様はこの電車にご乗車いただけません。お客様が再会を望まれる方は、もうこの世にはいらっしゃらないからです。その男性は先ほど、陶製の灰皿で頭部を強打され、即死した模様。その男性もこの電車で、ある方に会いに行くため、乗車を希望されておられたようです。その方のお名前は、アヤさんとおっしゃる女性のようです。」

アヤはガックリと肩を落とした。まさか、自分が当の彼を殺めてしまったなんて。しかも、彼も自分に会いに乗車を望んでいたというのに。蒼白の顔色で佇むアヤに、再び車掌からのアナウンスが。

「まもなく当列車と連絡いたします車両は、亡くなられた方に会いに行ける特別便でございます。ご希望の方は、ご乗車ください。ご乗車の際、乗車料金はお客様の自由。ただし、条件がひとつ。その電車に乗られた方は、二度とこの世には戻ってこられません。ですので、乗車されるかどうかは、くれぐれも慎重に。まもなく、電車が到着いたします」

アナウンスを耳にしたアヤは、無表情のまま小さくうなずき、静かにドアを出て、向いの乗り場へと歩きだした。