「ねぇ。あなた、隠しごとしてるでしょ?」

 休日の何気ない昼下がり。ひとときの休息を打ち破るように、妻は唐突に突きつけてきた。

 まさかこいつ、知ってるのか?

「ごめんね……見ちゃったんだ」

 そう言いながら、申し訳なさそうに謝る妻。それを見て俺は確信した。確実に知っていやがる。こいつも殺さないと。

「奥さんと別れてくれなきゃ、あなたを殺して私も死ぬから」

 まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。

 職場の部下だった麻衣。彼女の仕事の悩み相談にのっているうちに、いつしか麻衣との関係は親密になっていた。

 ちょっとした浮気心。断ち切ろうと思えばいつでも断ち切れる。どこか逃げ腰の俺とは対照的に、麻衣が注ぐ俺への愛情は日増しに熱を帯びていった。

 麻衣が手にしたナイフが目に飛び込んできた瞬間、俺は反射的にナイフを奪い、気づけば凶器は麻衣の腹に。白いブラウスが、瞬く間に真っ赤に染まる。

「うそだろ……」

 死体が見つかれば俺の人生は破滅してしまう。とにかく死体を処分しないと。俺は完全に気が動転していた。

 妻が帰ってくる前になんとかしなければ。だからといって、死体を家から外に運び出すのはリスクが大きすぎる。

 そうだ、庭に埋めてしまおう――そう思いついた俺は自宅の庭に飛び出した。一心不乱に穴を掘り、麻衣の死体をそこに放り込んだ。

 そして、彼女の上に土をかぶせていく。自分の罪を覆い隠すように。

 妻が仕事に出ている時間の出来事だ。なぜこいつはそれを知っているんだ?

「大変だったでしょ?」

 妻の質問が核心を突く。そりゃ、穴を掘って死体を埋めるのは大変だったよ――とでも答えて欲しいのか?

 俺に背を向けている妻に悟られないよう、そっと花瓶を手にとる。

「なぁ、すべて知ってるのか?」

「見ちゃったからね」

 花瓶を持つ手に力を込める。

「まさか、あんなところに隠しておくなんてね――」

 手にした凶器を持ち上げたその時だった。

「せっかく誕生日のサプライズに用意してくれたネックレスだったのに、先に見つけちゃってごめんね……人気のアイテムだったから、探すの大変だったでしょ?」

 ふいに出た妻の言葉に、強張った全身の筋肉が一気に緩む。俺の手から殺意を失った花瓶が滑り落ちた。

「あなたの部屋を掃除してたとき、気になっていた小説が本棚にあったから、手に取ってみたの。そうしたら、本棚の奥にネックレスのケースが隠してあるのを見つけちゃって……」

 絨毯の上に落ちた花瓶は、幸いにも割れずに済んだ。

 慌てて笑顔を作りながら、「隠しごとしてるでしょ? なんて、いきなり聞いてくるもんだからビックリしちゃったよ。せっかく君を喜ばせようと隠してあったのに、見つけちゃったのかぁ。それじゃ仕方がない。サプライズは、おあずけだな」と、平静を装う。

「ごめんなさい」

 妻は謝りながら、俺に飛びついてきた。

 動揺からくる心臓の高鳴りを悟られないだろうか。妙に汗ばんだ肌に違和感を持たれないだろうか。

 先に控える誕生日の演出を台無しにしてしまった罪悪感から解放されたのか、安心して俺に抱きつく妻。特に変わった様子もない。心配する必要はなさそうだ。

「サプライズができなくなった埋め合わせに、誕生日には美味しいご飯でも食べに行こう」

 妻の髪を撫でながら、甘い声を出す。

「うん」普段と変わらない笑顔を見せた。

 カーペットの上に転がる花瓶に気づくと、妻は腰をかがめそれを拾う。元あった場所に戻すと、愛おしそうに陶器をさすりながら妻は言う。 「ウチの庭って、もうひとり分くらい埋められるスペースあったよね?」

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