深夜バイト

「日当5万円!?」
「そうなんだよ。しかも、勤務時間はたったの30分くらいなんだよねぇ」
自慢気に語る友人の田中。どうやら先月から高給がもらえる深夜バイトを始めたらしい。噂を聞きつけた俺は田中を呼び出し、根掘り葉掘り聞き出してやろうと思った。金のなる謎のバイトの情報を。
居酒屋のバイトをクビになった俺は、喉から手が出るほど金が欲しかった。目の前には彼女の誕生日とクリスマスが控えている。それだけじゃない。パチンコだってしたいし漫画だって読みたい。
「なあ。どんなバイトなの?」
「え?」
「俺も紹介してよ」
いくら幼稚園の頃からの幼馴染とはいえ、こういうお願い事はとかく頼みづらい。
「それはちょっと──」
「なんで? 別にいいじゃん」
友人の肩を小突きながら粘る。なんせラクして稼ぎたい。すると田中は口ごもりながら答えた。
「たかがバイトでも、適正ってものがあるからさぁ。お前には向いてないと思うんだよね」
田中の声が嫌味を帯びた気がした。見下されたようで腹が立つ。いくら長い付き合いだからって、言っていいことと悪いことがあるだろう。
確かに田中は昔から多趣味で、周囲からも人気が高い。それに比べれば俺はつまらない人間なのかもしれない。だからって、こんな惨めな思いをしなくちゃならないのか。
「分かった。諦めるよ」
嫌悪感丸出しで吐き捨てる。そんな俺をよそに、田中は安心した表情を浮かべた。
ただ、俺はそんな潔い人間じゃない。あいつが深夜バイトに出勤する時間を見計らい、俺は後をつけた。あいつは街外れに佇む大豪邸の前に立つと、インターフォンを鳴らし、建物の中へと吸い込まれていった。

どうしても金が欲しかった俺は、次の日の昼間に豪邸を訪問。田中からの紹介と偽り、直接バイトの面接を希望した。ちょうどバイトの欠員がひとり出たところだからと、執事を思わせる男は俺を採用してくれた。
「日当5万かぁ!」
豪邸からの帰り道。きっと表情は緩みっぱなしだっただろう。聞くところによると、めちゃくちゃ簡単な仕事らしい。とりあえず今日の深夜が初出勤。日払いで現金手渡しの高給バイトなんて夢のようだ。金が貰えたらパチンコにでも行こう。

緊張しながら豪邸の門をくぐる。面接をしてくれた男に通されたのは、だだっぴろい洋室。部屋の隅には小ぶりなベッド。その上で老婦人が身体を横たえている。
仕事の内容はというと、その日あった出来事を婦人に語り、安眠へと誘うというもの。ただそれだけで金が手に入る。
俺はベッドの脇に置かれた丸椅子に座ると、抑えた声で自己紹介した。婦人は小さく頷き、俺に話すよう促した。
今日一日、これと言って目立った出来事もなかったが、下手くそな日記でも書くように、婦人に語って聞かせた。
しばらく俺の話に耳を傾けていた婦人の目が、いきなり大きく見開かれた。
「この子を追い出しなさい!」
あまりの大きな声に、心臓が飛び出しそうになった。入り口のドアが勢いよく開けられ、ガードマン風の屈強な男たちがゾロゾロと部屋に入ってくる。
「ちょっ──」
男たちは強引に脇に手を滑らせ、いともたやすく俺の身体を宙に浮かせた。
「俺が何かしましたか!?」
ヒステリーが静まらない婦人は、俺の声をかき消すように叫んだ。
「こんな退屈な人生を送ってる人間になんか興味がないよ! 他人を悦ばせられるような人間になってから出直しな。老女の性癖をナメるんじゃないよ!」
俺は引きずられるようにして、豪邸から放り出された。あまりにも一瞬の出来事に面食らい、気づけば田中に電話をかけていた。
「実はさぁ──」
彼のバイト先に無断で働き口を求めたこと。紹介を偽ったこと。そして今、職場からつまみ出されたこと。全てを告白した。すると受話口から田中の冷めきった声が聞こえてきた。
『お前に言えてなかったんだけどさぁ、お前ってほんとつまんない人間じゃん。ほんとは俺、お前のこと友達って思ってないんだよね』
電話は一方的に切られた。電話だけじゃない。友達としての縁すらも──。

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